【2022年1月29日追記】日本政府は全ての国と地域から入国する帰国者・入国者に求めている自宅または宿泊施設での待機期間を、10日間から7日間へ短縮する措置を発表しました。新型コロナウィルス・オミクロン株の感染が支配的になっている国と地域からの帰国者・入国者が対象になります。
新型コロナウィルスの影響により、人々の自由な移動が制限されてから3年目を迎えます。2022年になっても、再開の兆しが見えない海外旅行ですが、安心・安全な海外旅行はいつから可能になるでしょうか?これから海外旅行を計画するためには、越えなければならない高い壁が存在します。それらの壁が取り払われて、ようやく自由な海外旅行の機運は高まってくるはずですが、現状を俯瞰する限りまだまだ海外旅行は遠い存在だと言わざるを得ません。これから越えなければならない3つの壁についてお伝えします。
目次
1.日本の水際対策(厚生労働省)
安倍・菅政権時代には後手後手に回ったと各方面から批判された日本の水際対策ですが、岸田政権になった瞬間から非常に迅速で厳格なものに変化しました。デルタ株の国内収束に伴い、昨年10月から11月にかけ一度は緩和された水際対策ですが、アフリカ南部で発生したオミクロン株の出現により、現政権は驚くほど迅速な水際対策を発令しました。条件付きで10日間及び3日間に短縮された自宅待機期間は、再び例外なしの14日間待機(隔離)となり、外国人の新規日本入国は全世界を対象に停止され、オミクロン株の発生国から日本へ入国する帰国者に対しては、3日間・6日間・10日間と小刻みな宿泊施設待機を課し、合計14日間は他者との接触を避け待機するように要請されました。また、オミクロン株陽性が判明した帰国者と同じ飛行機に乗っていた乗客は、濃厚接触者とみなされ、乗客全員が宿泊施設待機を要請されました。
オミクロン株の感染拡大が収束した後も、今後、もし、欧州・北米・南米・アジア・アフリカ諸国など他国で更に新種の変異株が発生した場合には、再び迅速で厳しい水際対策を日本政府は取ることになるはずです。今回、日本政府のオミクロン株に対する迅速な水際対策は、国内世論で高い評価を得ました。新種の変異株に対する、国民の警戒感が依然強いことの現れです。現政権が今回の国内世論を踏まえ、迅速な水際対策を繰り返す限り、オミクロン株の感染拡大収束後に一旦は水際対策が緩和されたとしても、新種の変異株発生と同時にあっという間に再び厳しい措置に転換されることになりそうです。新型コロナウィルスが、季節性のインフルエンザや風邪の延長線上とみなされるまでには、もう少し時間がかかりそうです。8割近い国民が2度のワクチン接種を終え、治療に有効な飲み薬が承認された現在でも、新種の変異株に対する警戒感は薄れていません。日本政府は、ゼロコロナからウィズコロナ時代への転換を、未だ宣言できずにいます。
オミクロン株の感染拡大が収束し、日本の水際対策が全面的に解除もしくは緩和され、海外との往来が再開されたとしても、どこかの国で新種の変異株が発生したと同時に、再び迅速で厳しい水際対策が繰り返されることは明白な事実です。これでは3カ月先、6か月先の海外旅行などとても計画できるものではありません。ましてや、会社の社員旅行・報奨旅行や修学旅行などの海外団体旅行は、リスクが大きすぎて企画することすらはばかれる状況です。海外へ社員旅行に行った社員全員が14日間自宅待機でもしようものなら、その会社は機能しなくなってしまいます。
日本の水際対策一つを取っても、人々が安心して海外旅行を満喫するには、国民の大半が3回目のワクチン接種を終え、経口治療薬が潤沢に市中に出回り、日本政府がウィズコロナ時代への転換を宣言する必要があります。これらの環境が整うまでには、少なくともあと1年はかかると思われます。それまで、安心・安全な海外旅行は望むべくもありません。
2.海外安全情報(外務省)
現在、日本政府(外務省)では2つの海外情報を国民に提供しています。その一つ「海外安全情報」は、日本政府(外務省)が発出する諸外国の安全情報です。危険度に応じレベル1からレベル4までに区分けして、日本から海外へ渡航を予定する人に対して注意を促しています。現状では、中国や一部のアジア諸国などを除く、大部分の国や地域がレベル3「渡航は止めてください(渡航中止勧告)」に指定されています。外務省では、レベル3の注意書きに「その国・地域への渡航は、どのような目的であれ止めてください。(場合によっては、現地に滞在している日本人の方々に対して退避の可能性や準備を促すメッセージを含むことがあります。)」とかなり強い表現で、渡航の中止を勧告しています。外務省が発出する海外安全情報がレベル0(危険情報なし)まで下がらない限り、海外への渡航には大きなリスクを伴うことを覚悟する必要があります。
3.感染症危険情報(外務省)
もう一つは「感染症危険情報」です。こちらもレベル1からレベル4までの区分があります。この外務省が発出する危険情報が、レベル2~レベル4に指定されている国と地域への渡航は、非常に大きなリスクを伴うことを意味します。外務省の情報によれば、レベル1に指定されている国や地域は現在一つもなく、ほぼ全ての国と地域がレベル2もしくはレベル3に指定されているため、現状では安全な外国は皆無と言うことになります。国別の情報はこちらを参照してください。(役所の資料なので、非常に見づらいのが難点です。)
「感染症危険情報」の概要
「感染症危険情報」は、新型インフルエンザ等危険度の高い感染症に関し、渡航・滞在にあたって特に注意が必要と考えられる国・地域について発出される海外安全情報です。危険情報の4段階のカテゴリーを使用し,世界保健機関(WHO)等国際機関の対応や,発生国・地域の流行状況,主要国の対応等を総合的に勘案して発出します。また,4段階のカテゴリーごとの表現に収まらない感染症特有の注意事項を,状況に応じて付記します。
「感染症危険情報」発出の目安
- 外務省は,海外における感染症発生初期の段階では,基本的に「感染症広域情報」及び「感染症スポット情報」により,一般的な注意喚起を行います。 そして,新型インフルエンザの発生が予測される場合や,未知・既知の感染症の流行拡大が懸念される場合には,WHO等国際機関の対応や,発生国・地域の状況(流行状況,現地医療体制等),主要国の対応等を総合的に勘案して,「感染症危険情報」を発出します。
- 「感染症危険情報」の発出後も,「感染症広域情報」や「感染症スポット情報」により,最新の情報を提供します。
- 「感染症危険情報」のカテゴリー及び発出の目安
「感染症危険情報」の4段階のカテゴリーごとの発出の目安は以下のとおりです。
レベル1:十分注意してください。 特定の感染症に対し,国際保健規則(IHR)第49条によりWHOの緊急委員会が開催され,同委員会の結果から,渡航に危険が伴うと認められる場合等。 レベル2:不要不急の渡航は止めてください。 特定の感染症に対し,IHR第49条によりWHOの緊急委員会が開催され,同委員会の結果から,同第12条により「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)」としてWHO事務局長が認定する場合等。 レベル3:渡航は止めてください。(渡航中止勧告) 特定の感染症に対し,IHR第49条に規定する緊急委員会において,第12条に規定する「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)」が発出され,同第18条による勧告等においてWHOが感染拡大防止のために貿易・渡航制限を認める場合等。 レベル4:退避してください。渡航は止めてください。(退避勧告) 特定の感染症に対し,上記のレベル3に定めるWHOが感染拡大防止のために貿易・渡航制限を認める場合であって,現地の医療体制の脆弱性が明白である場合等。外務省「感染症危険情報」より抜粋
これら外務省が発出する2つの海外情報は、海外旅行を計画する際の大きな指針となります。安心・安全な海外旅行を楽しむためには、渡航を予定する国や地域がレベル0(危険情報なし)に指定されるタイミングを待たなければなりません。世界的に新型コロナウィルスの収束宣言が出ない限り、「感染症危険情報」のレベルが下がることはないかもしれません。「海外安全情報」と「感染症危険情報」が外務省内でどのようにリンクしているのか、分かりづらい部分もありますが、この2つの海外情報が同時にレベル0(危険情報なし)に下がる日がいつになるのかは、全く予想が付きません。つまり、安心・安全な海外旅行の再開は、まだまだ先の話だと言えます。
旅行会社に注意を促す外務省
外務省の発出する2つの海外情報を軽視して、海外パッケージツアーを販売する旅行会社に対して、外務省は警告を発しています。以下、その全文をご紹介します。
旅行会社は,外務省が発出する危険情報やそのレベル・内容に関わらず,自己の責任において企画旅行の実施を判断しています。旅行会社によっては,外務省の危険情報のレベルに応じて,主催旅行の取りやめや顧客からのキャンセル料徴収の要否を決めているようですが,これらは旅行会社が自らの判断で行っていることです。国民の皆様から外務省に対して,「危険情報のレベルが低いから旅行会社からキャンセル料をとられてしまう。レベルを上げて欲しい」といった要望や照会が度々あります。しかしながら,外務省は,国民の安全(生命・身体への影響)を判断基準として危険情報を出しているものであり,キャンセル料の問題をはじめ旅行契約に関する事項はあくまでも,旅行会社と顧客との間で解決すべき問題ですので,この点はご理解頂きたいと思います。
信頼性の高い旅行会社は,当然のことながら顧客の安全を第一に考えるものです。旅行会社を選ぶ際には,料金の安さばかりではなく,その会社の安全対策についての考え方(現地の安全に関する情報をきちんと提供してくれるか,どういう判断基準で主催旅行を中止するのか,また実施する際にはどういった安全対策を行うのか等)を事前に十分聞いた上で,判断することが大切です。
なお,旅行業界では観光庁の指導の下,旅行安全マネジメントを推進しており,日本旅行業協会(JATA)では海外旅行の安心安全な実施のためのガイドラインを策定しています。
外務省「感染症危険情報」より抜粋 (太字及びラインマーカー部分は筆者の判断で強調)
長引くコロナ過で塗炭の苦しみの中にある大手旅行会社の中には、前掛かりで海外旅行商品を発売し、事前に旅行代金を収受している会社も見受けられます。しかし、外務省の警告のとおり、海外安全情報や感染症危険情報がレベル3のうちは、主催旅行を販売する姿勢自体、その会社の「良識」を疑わざるを得ません。オミクロン株の感染拡大が懸念される今は、安心・安全な海外旅行の実施には程遠い状態です。帰国後には14日間の宿泊施設待機と自宅待機が要請されているにも関わらず、消費者を誤解させるような安価な旅行商品の羅列は断じて容認できるものではありません。
旅行者にとってのベストシナリオとは
海外旅行再開の目安として、2つのシナリオを想定してみました。これらの条件が整った時、人々は再び国境をまたいだ自由な移動が可能になるはずです。なお、これらの条件は、2度もしくは3度のワクチン接種を終えていることが大前提となります。中間シナリオで海外旅行を計画する場合は、相応のリスクがあることを認識してください。そして「良識」のある信頼性の高い旅行会社に、安全対策に関する相談を事前に行うことをお勧めします。
A. 中間シナリオ(海外旅行実施の許容範囲)
- 日本の水際対策が緩和され、帰国後14日間の待機要請が大幅に短縮もしくは解除される。
- 訪問国入国時のコロナウィルス陰性証明書の取得義務は継続されるが、取得費用は軽減される。
- 日本帰国時のコロナウィルス陰性証明書の取得義務は継続されるが、取得費用は軽減される。
- 外務省が発出する2つの海外情報が「レベル2」以下になる。
- 訪問国における、隔離措置・待機措置などの要請がワクチン接種完了者に対し免除されている。
B. ベストシナリオ(安心・安全な海外旅行の実施)
- 日本の水際対策が解除され、帰国後の待機要請が無くなる。
- 訪問国入国時のコロナウィルス陰性証明書の取得義務が撤廃される。
- 日本帰国時のコロナウィルス陰性証明書の取得義務が撤廃される。
- 外務省が発出する2つの海外情報が「レベル0」(危険情報なし)になる。
- 訪問国における、隔離措置・待機措置などが全て解除されている。
以上の内容を踏まえると、安心・安全な海外旅行の再開までには、どんなに早くてもあと1年はかかると筆者は予想しています。海外旅行を主体とする旅行会社の苦難はまだまだ続きます。